読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

今日の彼女 20170106

今日の彼女はちょっと物憂げだった。

僕の家にのっそりのっそり入ってきた彼女は、ゆっくりとリュックを支柱にかけて、colemanの折り畳み式チェアーに深々と腰掛けた。特に何も発しない。

僕はちょっと彼女の雰囲気が気になった。けど言葉にするのはやめておいた。言葉にするとなんだか予想外の意味合いを含んじゃうことがある。思ったことを口にするという行為は一見シンプルだけど、対象の人がいると途端に複雑になる。僕はそういうテクニカルなことがとっても苦手だし、経験があさいのだ。僕にとってただしい行動は口を閉じることである。

彼女はNHKeテレのおじゃる丸を見始めた。でんぼという蛍のキャラクターの声真似をしてクスクスと笑っている。僕はちょっとほっとした。

今日はナポリタンを作った。昨日彼女に何が食べたい?と聞くと、「ナポリタン!から揚げ!あとサクレ(氷菓子)」と威勢よく答えた。彼女は物欲が少ない。生活するうえで必ず必要となるもの、そしてちょっと自分らしさを与えるものを余分に買うくらいだ。しかし、食べ物に関しては欲が強い。彼女と僕はほとんどLINEを使ってやり取りしているだが、その内容は簡素なもので、「バイトおつかれ」「ありがとう」「おやすみ」「おはよう」とありきたりで必要最低限の言葉しか使われない。ただ、たまに「肉!肉が食べたい」「寿司を食べに行くぞ」とかすっごい食べたいものを僕に要求してくる。前世になにかあったに違いない。フードファイターの生まれ変わりか、南アフリカ貧困層の生まれ変わりか、そんなとこだろう。たべたいものを率直にいってもらうとこちらとしては助かる。

玉ねぎをカットしてバターで炒めていると、隣の部屋で忍たま乱太郎を見てエキサイティングしていた彼女が「バターを焼いたにおい、いいにおいね」と僕に呟いた。なんだか久しぶりに彼女が素直な言葉を僕に向けて発したような気がした。僕は胸のつかえがすっとなくなるのを感じた。「そうだね。僕もそう思う」そう簡単に答えると僕たちは料理の支度ができるまで再び言葉を交わさなかった。

僕は沈黙というものをなによりも恐れている。本当にイチバンかな、とちょっと考えてみたけど恐れているものの中では断トツだった。理由は説明できるけどながくなるからしない。この時の沈黙はなぜか心地よかった。お互いとても素直になってこころをひらいていたからだと思う。沈黙を埋めるなにかがそこにはあった。こんな沈黙がずっと増えていけばいいな。長く付き合えば付き合うほど言葉が必要なくなっていくようだ。そのとき生まれる沈黙が心地よいものとなって僕たちの周りをただよっていますように。

おやすみなさい。